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東京高等裁判所 昭和49年(ネ)1797号 判決 1975年3月27日

控訴人

清水相吉

右訴訟代理人

城田富雄

被控訴人

株式会社力行会

右訴訟代理人

杉本銀蔵

主文

原判決を取り消す。

本件を静岡地方裁判所に差し戻す。

事実

《前略》

(控訴人の主張)

原判決は、本件不動産については、本件競売手続開始決定後、根抵当権者勝亦重三が任意競売の申立てをし、静岡地方裁判所は、昭和四八年五月二日、右申立てを本件競売事件記録に添付しているのであるから、控訴人が主張するように仮に、本件競売事件において根抵当権の被担保債権が不存在であつても、添付にかかる事件が自ら競売手続開始決定を受けた効力を生じ、以後、競売手続を追行したものと認めるのが相当であり、本件競売手続が無効であるとする控訴人の主張は失当であるとして、控訴人の請求を棄却した。しかし、本件競売事件に勝亦重三の任意競売の申立てが記録添付された旨の事実主張は、被控訴人から全くされていないのにもかかわらず、その事実を認定し、それに基づいて控訴人の請求を棄却したのは弁論主義に違背するものであるから、原判決を取り消して、更に、審理を尽くさせるため第一審裁判所に差し戻すべきである。

(被控訴人の主張)

一、一般の民事訴訟においても、訴訟係属の有無等の公益に関係する訴訟上の事項は、職権探知によるべきであるから、競売申立事件において記録添付にかかる事件の存在の有無及びそれが本件訴訟に及ぼす効果についての判断は、当事者の主張がなくとも裁判所が職権で行うべきものであり、右については弁論主義は適用されない。

二、仮に、右主張が理由がなくても、本件不動産については、本件競売手続開始決定後、根抵当権者勝亦重三が任意競売の申立てをし、右は昭和四八年五月二日、本件競売事件の記録に添付されているのであるから、本件競売事件の被担保債権が不存在であれば、添付にかかる申立てが競売手続開始決定を受けた効力を生じ、以後、これに基づき競売手続が適法に進行されたものと認められる。

理由

控訴人が原審において主張した本訴請求の原因は、大略、「本件不動産は、控訴人の所有であるところ、それにつき、債権者鈴木憲一、債務者清水活郎、債権元本極度額一二〇万円とする根抵当権設定登記がされており、債権者鈴木憲一は、債務者清水活郎に対して手形貸付けをした二、四〇三、〇七〇円のうち一二〇万円とこれに対する遅延損害金債権をもつて、静岡地方裁判所に本件不動産について任意競売の申立てをし、同裁判所の昭和四七年一月一三日なした競売手続開始決に基づく手続において被控訴人が昭和四八年九月一九日不動産を競落したので、競落許可決定の後、同年一〇月二七日、被控訴人のため所有権移転登記がされた。しかし、清水は、鈴木から右金員を借り受けたことはなく、また、鈴木に対する他の債務の引受けをしたこともない。従つて、いずれにしても本件根抵当権の被担保債権は、存在しないのであるから、本件競売手続は、無効である。」というのであり、これに対し、被控訴人は、「控訴人主張の抵当権につき被担保債権が存在しないとのことを争う。仮に、被担保債権が存在しなくとも、本件競売手続費用が残存するから、本件競売手続は有効であり、また、控訴人は、鈴木に対し、競売手続開始決定後、遅延損害金を支払つて競売期日を延期させ、更に、被控訴人が競落後においては、鈴木が売得金から配当を受領することに異議を述べず、本件根抵当権の被担保債権の存在を認め、且つ競売手続が違法であることを承認していたのであるから、その後に至つて本訴を提起するのは、権利の濫用である。」とのみ主張していたのにもかかわらず、原裁判所は、「本件根抵当権の被担保債権が不存在で、そのため本件競売の申立ないしその手続は無効であるとしても、昭和四八年五月二日、根抵当権者勝亦重三の任意競売の申立てが記録添付されていることが認められるので、右添付にかかる競売申立てが競売開始決定を受けた効力を生じ、以後、これに基づき競売手続が進められたものと認めるのが相当であるから、本件競売手続が無効であるとする控訴人の主張は、結局失当である。」として控訴人の請求を棄却したことが訴訟上明らかである。

そこで考えるのに、競売手続が無効である理由として抵当権の被担保債権が存在しないという事実主張に対し、当初の競売手続開始決定がなされた事件の抵当権の被担保債権が存在しなかつたとしても、当該競売事件には、その後、他の抵当権者からなされた競売申立てが記録添付され、以後の競売手続は、添付にかかる事件の手続として追行され、その結果、競売に付された不動産が競落されるに至つた旨の事実は、競売手続の無効を阻止する法律効果を伴う別個独立の事実であるから、その事実については、当事者の弁論にあらわれた場合にかぎり裁判所は、その事実の有無を判断の対象とできるものであるところ、本件においては、被控訴人はじめ他の当事者から右事実主張が全くされないのにもかかわらず、原裁判所は、その事実を認定して控訴人の請求を棄却したものであつて、原判決は、弁論主義に違背するものといわなければならない

被控訴人は、民事訴訟においては他の事件の係属の有無、その係属のある場合、当該訴訟事件に及ぼす影響等については、当事者の主張をまつまでもなく、裁判所が職権で探知すべきであり、弁論主義は適用されないと主張するが、本件におけるように競売手続の効力が争点となつている場合、その有効を理由あらしめる事実は、職権探知事項ではないから、被控訴人の右主張は、理由がない。《以下、省略》

(吉岡進 兼子徹夫 榎本恭博)

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